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福岡高等裁判所 昭和43年(ネ)541号 判決 1969年1月29日

主文

一審原告等の本件控訴を棄却する。

原判決を次のとおり変更する。

一審被告は、一審原告タマヱに対し金一七三万五、〇〇〇円と内金一五八万五、〇〇〇円に対する昭和四〇年一〇月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、その余の一審原告等に対しそれぞれ金九九万四、九〇〇円と内金八九万四、九〇〇円に対する同日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

一審原告等のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分し、その一は一審原告等の、その余は一審被告の各負担とする。

この判決は一審原告等においてそれぞれ金二〇万円の担保を供するときは、第二項にかぎり仮に執行することができる。

事実

一審原告(以下単に原告という)等は「原判決を次のとおり変更する。一審被告(以下単に被告という)は、原告タマヱに対し金三三八万七、一九六円と内金三〇八万七、一九六円に対する昭和四〇年一〇月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告民子、同清美に対しそれぞれ金一六四万五、九九八円と内金一五四万五、九九八円に対する同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告憲司、同美智子に対しそれぞれ金一六九万五、九九八円と内金一五四万五、九九八円に対する同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、被告は「原判決中被告敗訴部分を取消す。原告等の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも原告等の負担とする。」との判決を求め、なお当事者双方は互に相手方の控訴を棄却するとの判決を求めた。

当事者双方の主張、立証の関係は原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決一〇枚目表七行目に「第五」とある部分を削除する。

理由

本件事故の発生とそのため訴外井本清一が死亡したこと、右事故が訴外戸田正利の過失に基因すること、被告が右戸田の使用者として右清一本人およびその妻子である原告等の被つた損害を賠償すべき義務があること、他方被害者である清一にも過失があり、賠償額の決定に斟酌さるべきこと、以上の点については当裁判所の判断も原審とほぼ同様であるから、原判決中当該部分の記載を引用する。ただし、原判決一一枚目表一行目の「成立に」の次に「(甲第四号証の一乃至三については原本の存在も)」と挿入し、同じく三行目の「右の時刻」とあるのを「右事故発生の時刻」に、同じく七行目から八行目にかけて「直ちに減速すべき注意義務」とあるのを「直ちに減速もしくは停止して視力の回復を待ち、しかるのちに進行すべき注意義務」に、一三枚目裏一行目の「困難では……」以下三行目までの部分を「困難ではない。もつとも、清一は横断歩道を歩行中であつたことが認められるが、たとえ歩行者が優先権を有する横断歩道であつても、夜間交通頻繁な個所を横断するについては歩行者においても相当の注意を払う義務があることは否定できない。」にそれぞれ改める。

そこで、清一の死亡に基づく損害について検討する。

一、清一のうべかりし利益の喪失

〔証拠略〕を綜合すると、原告等主張の請求原因(一)1の(イ)、(ハ)、(ニ)についてはその主張どおり、(ロ)については九四万一、七五五円の財産上の利益を失つたことが認められる。(ロ)について原告等は清一の平均余命を二〇年と主張するけれども、昭和三五年度簡易生命表によれば五四歳の男子の平均余命が一九年であること、当裁判所に顕著なところであり、また清一が死亡に至るまで生活費を要することはいうまでもないから、これを右(イ)と同様に収入の三割と見積り控除して、ホフマン方式により計算すると同人は死亡時の現価で九四万一、七五五円の利益を失つたことが明らかである。

とすれば、清一は死亡により以上合計四三三万六、七七四円のうべかりし利益を失つたことになる。右認定に反する証拠はない。

しかしながら、右清一にも過失のあること前記のとおりであるから、この点を斟酌すると、被告にはその約八割三四六万九、四〇〇円を賠償させるのが相当と認める。

二、清一本人の慰藉料

〔証拠略〕を併せると、右清一が原告等主張のとおりの経歴、家庭環境にあつたことが認められ、これに本件事故の態様、右清一自身の過失等を綜合すると、同人に対する慰藉料としては一〇〇万円をもつて相当と認める。

しかして、原告等が清一とその主張どおりの身分関係にあることは当事者間に争いがないので、原告タマヱはその妻として前記一および二の三分の一、すなわち一四八万九、八〇〇円、その他の原告等はいずれもその子として各六分の一、すなわち七四万四、九〇〇円の賠償請求権を相続により相続した。

次に、原告等固有の慰藉料について検討する。

前記争いのない事実、認定にかかる事実に〔証拠略〕によつて認められる諸般の事情を考慮すれば、夫を失つた原告タマヱに対しては慰藉料五〇万円、父親を失つたその他の原告等に対しては慰藉料それぞれ二五万円が相当であると認める。

そして、原告タマヱは四〇万四、八〇〇円、その余の原告等は各一〇万円の賠償を前記加害者戸田からうけたことを自認するので、これを差引き以上を合計すると、原告タマヱは一五八万五、〇〇〇円、その余の原告等は各八九万四、九〇〇円といずれもこれに対する清一死亡の翌日である昭和四〇年一〇月二六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を請求しうべきものである。

また、〔証拠略〕によると、原告等が右賠償請求の訴訟の提起を大分弁護士会所属の弁護士吉田孝美に依頼し、その報酬として原告等主張の金員を支払う旨約していることが認められるが、本件訴訟の経緯その他諸般の事情を考慮すると、原告等が賠償請求をなしうべき範囲は、原告タマヱについて一五万円、その余の原告等について各一〇万円を相当と認める。

ところで、被告は免責事由として、前記戸田の選任監督について相当な注意を払つた旨主張するが、これを認めるに十分な証拠はない。〔証拠略〕によれば、被告は部内職員に対して交通事故防止のため、一般的に遍々文書を配布したりして注意を喚起していることは認められるが、それ以上たとえば本件のような公用車の使用等については具体的監督措置がとられた形跡がなく、未だもつて使用者としての責を免れることはできない。

また、被告は原告等と前記戸田間の和解の成立を主張するけれども、民法七一五条により使用者において被用者が事業の執行につき第三者に加えた損害を賠償すべき債務と、被用者が同法七〇九条により自ら負担する損害賠償債務とは、別個の債務であつて連帯債務ではなく、ただ被害者は被用者と使用者のいずれに対しても賠償を求めうるところから、そのうち一方の賠償債務履行により両者の債務が消滅する関係にあるに過ぎない。従つて、原告等と被用者である戸田間の和解の成立が事実であつたとしても、使用者たる被告の義務には影響がないというべきである。

そうだとすると、原告等の本訴請求は右の限度で正当として認容し、その余は失当として棄却すべきところ、原判決は一部結論を異にするのでこれを変更し、原告等の本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 池畑祐治 蓑田速夫 権藤義臣)

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